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マニ宝珠㉒ [小説「マニ宝珠」]

 ――セt teルmOt アmユゾnッ ドe ホoンdュ uぃnヌ ヴe!!!


ルナンサンの目の前で魔物の攻撃を懸命に盾で防ぐマデューク。

――ガツ  ――ッガ! ――ガンッ

魔物の拳が振り下ろされる度に、盾が鈍い音を立てる。

マデュークは助けを求めるどころか、逆に大声を上げて魔物を挑発する。


‥囮になって時間を稼ぐつもりなのか。


魔物の注意を引きつけておくつもりのようだが、

マデュークが反撃してこない様子に、攻撃は激しさを増していく。


‥‥あの大楯を掲げたまま四半時は経ったか。腕はもう辛かろうに‥。


マデュークが魔物の攻撃を受けてよろめいた。

見ていたルナンサンに緊張が走るが、すぐにマデュークは体勢を立て直す。

松明の明かりが魔物を照らし、影が動きに合わせて狂ったように躍る。


鉈で‥どうにかできる相手ではないだろうが。マデュークを手助けして、

二人でなら‥‥非力さを痛感しているルナンサンは決心がつかない。


踏ん張り続けたマデュークの思惑は実を結ぼうとしている。

揺らめく影‥と、別の影がひとつ、ふたつと‥ゆっくりと伸びていく。

暗がりから姿を見せたアキューロたちが、

魔物に気取られないよう慎重に距離を詰めてきていた。

しかし、マデュークからアキューロたちの姿は見えない。

魔物の身体能力を思うと完全に不意を突かねば、避けられてしまうだろう。


‥自分より若い者が命を張っている。

黙って見ているよう言われ‥この先も成り行きを見物するだけか?

ルナンサンは己ができることを考えていた。

マデュークの奮闘を見ていて、彼がクロウボウを背負っているのに気づく。

未熟であっても人を守り、戦う手段を備えた将来の騎士に敬意すら覚える。


狩猟の趣味でもあれば良かった。自分も仲間と家族を守る力があれば‥‥。


口惜しさと共に魔物と戦う力を切望すると、不意に腕輪から熱を感じた。

気のせいと思うが一応、手に触れて確かめたが特に変わったところはない。

訝しむルナンサンの腕輪から、やがて淡い光の筋が伸びて魔物を照らしだす。

雲の間から漏れる木漏れ日ほどに、か細いが神秘的な白銀の輝き。


一方的に攻め立てていた魔物がマデュークから距離をとって、後退りしていく。

鏡に反射した光で眩んだように貌を背けて、光輝を忌嫌うように背を向ける。

その間にも騎士たちはじりじりと距離を詰め、再び魔物を取り囲んでいた。

先ほどは暗闇で同士討ちの危険がある中を、

微かな松明の明かりに照らされる魔物へ斬り掛かるのと違って、

今度は立てられた松明の明かりが魔物の姿を煌々と照らしてよく見えている。

その隙に、マデュークは盾を構えたままでルナンサンの傍まで後退していく。

ルナンサンからは魔物の全身をしっかりと目視できていた。


‥‥なんと禍々しい姿。悪魔とは正しく目の前の者を言うのだろう。


ルナンサンの腕輪の輝きに魔物が怯んでいる様子を好機とみて、

騎士たちは四方から一斉に突進していく。

今度こそは仕留められるかのように思えた。

しかし魔物はまた驚くべき反応を見せて、地面を転がって囲みを抜ける。

躱されることを見越していたアキューロたちは、

息をつかせず直近の二人が再度 斬り掛かった。

だが、それすら勘づいた魔物は両手をついて跳び上がって避けた。


 ――Qゥaンd ル sロwpOゥクs ヴォle!!


着地した魔物は余裕を見せつけるように、足踏みして嘲笑う。

その油断した隙を窺っていた大柄な一人の騎士がいた。

魔物の気が緩む間隙を見逃さず、嘲弄する魔物に長剣を振り下ろす。

刹那に勘づいて身を翻す魔物だが、

剣は見事に角を切り落として、切っ先は貌の頬を削いだ。


 ――Oウg‥chッッ‥n‥オh‥サ aロs !


手傷を負ったことに動揺したか、

よろめいた魔物は立ててあった松明にぶつかった。

呪詛を吐き、怒りに唸り声を上げて威嚇していた魔物は、

己が身に起きていることに気がついたようだ。

松明の炎は魔物の髪に燃え移り、見る間に頭部まで這い上っていく。


 ――Ooh!Aghhhhhhhhhhhhh!!!


狼狽する魔物はやにわに頭を掴むと、地面へ投げ捨てた。


(羚羊の頭蓋を頭に被っていただと――!!!!)


羚羊の頭部が転がるのを見た全員が驚き、呆然として言葉を失う。

そしてすぐに、そのようなことに気を取られている状況ではなくなる。


「う‥っ!」


斬り込んだ騎士が口を押えて魔物から急いで離れていく。

「‥? うッ」

「! む‥ゥ」

「ぅ・・ぐ!」

畳み掛ける絶好の機であったのだが、すぐに事態を理解した。

「!!っう゛」

魔物から とてつもない悪臭が漂ってきたのだ。

皆、次々と吐き気を催して魔物との距離をとる。


「 ぉ・・ェ‥‥ッ」


ルナンサンは迫り上げる嘔気を懸命に抑えて後退るが、

呼吸もままならず咳き込むと、堪え切れずに嘔吐してしまった‥。

強烈な腐敗臭に鍛錬された騎士たちでさえ嘔吐いて、

意志に関係なく痙攣する腹筋を腕で押さえて前屈みに姿勢を崩す。


極めて危険な状況であったが、

魔物の方もこちらに構う余裕はなかったようだ。

髪から着衣に燃え移った火を消すのに必死な様子で、

幸いにも襲撃を受けることはなかった。


「手拭いで鼻を覆え。口から呼吸を整えて、構えは解くなよ!」


アキューロが仲間を励まし、騎士たちは体勢を立て直す。


 ‥チu デeずeスペェrあs うx シgン ド ラa mオぅt‥‥


ブツブツと何事か呟き、

黒い闇に佇む魔物はゆっくりとした足取りで姿を現した。

地面に落ちた松明の明かりで僅かに照らされた魔物の貌は――、

燃えずに残った髪は僅かで、衣服を裂いて貌を隠している。

こちらを高を括った態度から一変、

魔物は威嚇するように唸り声を上げ、腰から奇妙に捻くれた杖を構えた。


 ――いfフイぃエr ろomゴ ど ラa mオぅt‥,

ヌe プut ペas プuジr coムme ィne sたaチゅe そns aむe!!


言い知れぬ恐怖‥魔物から吹き上がる冥い異界の魔力が集中していく。

気圧されたルナンサンは恐怖に慄いて腰を抜かしてしまう。

騎士たちも魔物の鬼気に当てられて怯んだことで、魔術に捉われてしまった。


Tぃァンs!ラa モoるt シieンt セa mァn sョr トn エpaゥるe!!


魔物の、けたたましく嘲笑う声が近づいて来る‥‥。

迫りくる死を直感してルナンサンは恐怖のあまり錯乱状態になった。

アキューロたち騎士ですら体が硬直したまま身動きできず、歯を軋ませる。。

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